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家ではよくしゃべるのに… 特定の場面でだけ話せなくなる「場面緘黙」

2018-04-17


執筆:山本 恵一(メンタルヘルスライター)
医療監修:株式会社とらうべ

家庭では元気におしゃべりをしているのに、たとえば学校や職場などの公共の場において、特定の場面でだけ話せなくなるのが「場面緘黙(ばめんかんもく)」です。

「場面緘黙」は不安障害の一種とされていますがあまり知られていません。
ですから「人見知り」と誤解されて周囲から孤立してしまうことも少なくありません。
今回はこの「場面緘黙」について、詳しくご紹介したいと思います。

1.選択性緘黙とも呼ばれる場面緘黙

精神医学では「場面緘黙」は「選択性緘黙」とも呼ばれています。

発症の頻度は1,000人に0.3~7.1人と比較的まれな障害で、男女比では女子に多いようです。
また、症状は3歳ころから出始めるのですが6~8歳ころまで気づかれないケースも多いといいます。

そうなると、本人は長期間にわたりつらい思いを抱えていると推察されます。
先ごろ放映されたNHKの番組では (※)、「話したいのに話せない」という場面緘黙の「つらさ」がよく表れていますのでご参考ください。
※NHK Eテレ これまでの放送から『知られざる場面緘黙(かんもく)の世界』(http://www6.nhk.or.jp/baribara/lineup/single.html?i=577)

2.選択性緘黙とは?

『DSM-5(精神疾患の分類と診断の手引き)』では、場面緘黙は「他の状況で話しているにもかかわらず、話すことが期待されている特定の社会的状況において、話すことが一貫してできない」と定義されています。

話す能力に障害があるわけではなく、家庭などでは普通に話ができているのに、学校や職場といった「特定の場所」で話ができないという不安障害です。
また、次の3タイプに分類する考え方もあります。

●社会化欲求型

家庭内ではおしゃべりだが家庭外では沈黙がある。家庭内外の対人態度に差があり、家庭以外にコミュニケーションを求めるもの」
このタイプは、沈黙は自分の立場を維持しようとする「自己主張」だとみなされています。


●社会化意欲薄弱型

家庭内でも無口で生活行動全般に意欲が乏しい。家庭外でもコミュニケーションを求める意欲に乏しいもの」
このタイプは、家庭内外を問わず自己主張に欠けるとされています。


●社会化拒否型

「家庭外だけでなく家庭内でも場面緘黙があるもの」
このタイプには、家庭以外ではコミュニケーションを拒絶しているように見える、家庭内でも母親との強い結合がみられる、といった指摘があります。

3.場面緘黙の原因

選択性緘黙の原因には、次のような要因が指摘されています。

●内気な性格や敏感さ

繊細な気質から小さな刺激でも大きな不安を感じていると、人間関係や集団行動で「なじむのに時間がかかる」「他人に対して慎重」「目立つことを嫌う」などの特性をもっていきます。
よって、家庭のようにリラックスしているときは話せるのに、緊張や不安の多い社会的場面では緘黙してしまうと考えられます。

●コミュニケーションの問題性

場面緘黙は、バイリンガルの子どもに発症することがあります。
「会話は難しい」と感じさせてしまう、複雑で高度なコミュニケーションを求められる環境によるものと考えられます。
場面緘黙の子どもの3分の1には、こうした言語の問題があるといわれています。

●発達障害との関連

医学的には不安障害とみなされ、発達障害ではありません。
専門家のなかには、言語能力の遅れなど発達障害の影響を指摘する人もいます。

●認知の偏り=考え方の癖

感覚が過敏である、コトバの理解に時間がかかる、物事の捉え方や考え方に偏りがあるといった「認知の偏り」も場面緘黙につながると考えられています。
原因として、脳の認知機能の問題もあるでしょうし、一方で、「認知の偏り」を修正する周囲の大人の影響が薄いという点も汲み取るべきでしょう。

●身体を動かすときの特徴やつらい経験

運動が不得手、不器用、発達がゆっくりしている、空気が読めない、動作がぎこちないなど、身体を動かすときなどの特徴が場面緘黙のきっかけになることがあります。
引越しなど急激な生活環境の変化、いじめ・病気などのつらい体験なども同様です。

4.「話さない」のではなく「話せない」

このように、場面緘黙は「話さない」わけではなく「話せない」のです。
それを周囲が理解できていないという点が問題です。

治療に携わった専門医も「患児が自分からかかわりを求めることは少なく、身を固くしてじっとしていることが多い」と述懐しています。(※)
この記述からは場面緘黙の子どもが抱える、話せない場面が怖い・緊張する・過度に不安である、といった心もちが切々と伝わってきます。

誰しも多かれ少なかれ、人見知りする傾向は持っているでしょう。
しかし、自分の経験の範囲で場面緘黙を判断しようとすると、当人たちが感じているレベルの怖さ・緊張・不安を理解するのは難しいと思われます。

それでも、「社会化欲求型タイプ」のように、家庭外でも話せるようになりたい、と願っている人たちもいます。
このタイプは「治療がうまくいくと予後は良好」と専門家も見立てています。

日本では決して認知度が高くない「場面緘黙」。
ぜひこれを機に興味と関心を持っていただき、そうした子どもや大人に出会ったときに、共感的理解をもって接してもらえたら…と願うところです。

※樋口輝彦他/編集『今日の精神疾患治療指針』(医学書院 2013年 所収)
<執筆者プロフィール>
山本 恵一(やまもと・よしかず)
メンタルヘルスライター。立教大学大学院卒、元東京国際大学心理学教授。保健・衛生コンサルタントや妊娠・育児コンサルタント、企業・医療機関向けヘルスケアサービスなどを提供する株式会社とらうべ副社長
<監修者プロフィール>
株式会社 とらうべ
医師・助産師・保健師・看護師・管理栄養士・心理学者・精神保健福祉士など専門家により、医療・健康に関連する情報について、信頼性の確認・検証サービスを提供


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